ありがた迷惑な科学 ー 国連特別報告者が福島の健康対策向上を勧告 素知らぬ顔の日本

「なぜ尿検査をしないのか?なぜ血液検査をしないのか?用心の上に用心を重ねようではないか。」

国連特別報告者アナンド・グローバー氏は2012年の福島訪問に続き、今年三月には東京で講演をし、福島の住民への健康調査が依然として不十分であることと、放射能に関する健康問題について述べました。

三年前の福島第一原発事故後間もない時期から、福島県中の医師たちが嚢胞や結節の異常、しこりから、放射能の影響として顕著な甲状腺癌の兆候の発見に当たってきました。異常として確認された数字には不安を抱きます。しかし、同時に不可解でもあるのです。大抵の場合、甲状腺癌は放射線被曝後5年くらいでようやく発症し始めるからです。

それでは、医師や衛生当局者たちは調査で得た情報をどうするつもりなのでしょうか。

情報や警告は結局のところ、日本にとってはありがた迷惑なのです。原発の再稼働と元は避難区域に指定されていた居住地への住民帰還を計画しているこの国にとって、放射線被曝の悪影響を挙げられては経済推進への妨げとなります。

そこで日本は、これらの施策が国民の最善の利益とはならないことが実証されにくいよう巧妙な措置を講じています。新しい情報や証拠をもたらしかねない学術研究を阻む二つの手段を用います。一つ目は資金カット、二つ目は研究者たちに秘密主義を課してマスコミへ情報を提供させないという手です。3月16日付のニューヨークタイムズ でデビッド・マクニール記者がこうした経緯を綴っています。サウス・カロライナ大学のティモシー・ムソー教授は三度の福島への調査訪問で「困難さ」を実感し、タイムズ紙上で次のように語っています。

「自主規制しているか、もしくは教授たちが余程慎重を期すよう上部から警告されているかは極めて明白です。」

「更に周到な規制は、国からの調査資金不足です。日本政府は除染作業には何兆円と投じても、環境調査にはほとんど費やしていません。」

アメリカの科学者ケン・ブッセラー氏も日本周辺の海洋を数回調査し、タイムズ紙で述べています。

「研究者たちはマスコミに対して口を閉ざすよう言われているか、または許可なしにしゃべることに抵抗があるのです。」震災後の日本に調査で三度訪れているブッセラー氏は、日本政府に対し、原発事故で放出されたセシウムやストロンチウムの食物連鎖への影響調査にもっと資金を投入してほしいと考えています。「どうして日本政府はそこにお金をかけないのでしょう。得るものは大きいというのに。」

もし、研究者たちが財政的な問題が足かせとなって身動きがとれないのであれば、日本政府に対して強い影響力や権力を有する国、組織が実質的かつ独立的な健康調査を行うよう求めるという選択肢もあります。

東京都は2020年夏季オリンピックの開催地です。オリンピックを主催・統括する団体として、東京に開催の勝利を与えた国際オリンピック委員会(IOC)の一番の心配は、福島の状況と現在も続いている数々の問題でした。安倍晋三首相は当時のIOC会長ジャック・ロゲ氏に直々に「福島は安全である」ことを保証しました。

ニューヨークタイムズ編集委員会が3月21日付の記事で明らかにしたように、 福島第一原発の事故処理の現状は「恥ずべき」もので、決して安全と言えるものではありません。更に、日本国内外の科学者たちが述べる通り、環境、科学、健康それぞれの面から状況を解明する調査が現在十分に行われておらず、安全を保証するどころの話ではありません。

今年始め、ヘレン・カルディコット博士がIOCのトーマス・バッハ会長(経歴)宛てに、東京オリンピックに出場する選手団の健康に関する懸念を八項目にまとめた手紙を送りました。博士は手紙を次のように結んでいます。

「以上の理由から、私は会長からIOCに対し、生物医学の専門家による独立調査団の編成を促すよう強く要請いたします。即ち原子力産業及び原子力規制・監督機関と金銭やその他の利害関係にないメンバーによって放射能の影響を受けた全地域を調査し、健康被害の広がりや程度を明らかにするのです。そしてこれが日本が意欲を燃やす2020年の東京オリンピック計画の本格化で手遅れとなる前に行われることです。加えて、福島第一原発の原子炉と建屋の予断を許さない現状、地下水問題、汚染水で満杯の膨大な数のタンクについて、調査団が理解し、報告することが必要不可欠です。

全文は下部に掲載しました。また、 PDFで閲覧可能です。以前にも述べましたが、オリンピック開催に当たって、福島を安全な脅威として扱う一番の方法は、日本、IOC、各国の科学者や工学者らが、任せて「安全」な存在になることです。そうして結成された組織が、福島の危機を軽減する策が全て示されているか、適切かつ適時に措置が取られているかを査定、承認します。これぞ金メダル級の評価に値する行動です。

カルディコット博士の手紙

2014123

トーマス・バッハ様

 

私は、内科医、小児科医として、福島第一原発事故によって放出された放射能汚染物質や放射線の医学的影響について精通しております。(私の経歴はhelencaldicott.comでご覧いただけます)

 

ここに一筆申し上げましたのは、2020年開催の東京オリンピックに出場する選手たちの健康に深い懸念を抱いたからです。

 

東京電力は、一日ごとに採取する汚染水のサンプルから60種以上の人工放射性物質を確認しています。その多くは、セシウム-137、ストロンチウム-90、ヨウ素-129など、核分裂が出現する以前の自然界には存在しなかった放射性物質です。つまり、この種の放射性物質の自然放射線として占める量はゼロです。ところが一旦放出されると危険な状態のまま数百年間自然環境に残留します。

 

私の懸念事項は以下の通りです。

 

1.   東京都の一部地域は福島第一原発事故による放射能汚染を受けています。アパート、建物の屋根に生えている苔、通りの土壌から無作為に集めたサンプルを検査したところ、高濃度の放射能が検出されています。調査結果参照のご要望があれば応じます。

 

2.   従って選手たちは、アルファ線、ベータ線やガンマ線といった放射能を出す放射性ちりを吸い込んで体に取り込んでしまう恐れがあります。汚染された道路上や土中からのガンマ線による(エックス線撮影のような)外部被曝についても同様に考えられます。

 

3.   東京の市場に並ぶ食品の多くは放射能に汚染されています。政府による奨励策で福島県産の食材が売られているためです。(食品中の放射性物質を味やにおいで感知することは不可能な上、全品検査も実際的ではありません。)

 

4.   日本の東方沖で獲られた魚の多くは放射能に汚染され、中にはかなり深刻な度合いのものもあります。この問題は現在も続いており、ほぼ三年間毎日、損壊した原子炉からは300400トンの汚染水が太平洋へと流れ込んでいます。

 

5.  汚染された食物や飲料を選手たちが摂取した場合、何年か後に癌や白血病を発症する可能性があります。こうした疾患の潜伏期間は、個々の放射性核種や罹患臓器によって異なりますが、五年から八十年です。

 

6.  日本政府は放射性廃棄物を焼却し、一部の焼却灰を東京湾に廃棄しています。そこはオリンピック選手たちが競技する会場です。

 

7.  もう一つ大きな心配の種は、これから2020年までの間に、福島第一原発から更に放射能汚染物質が放出される可能性です。原発3号機と4号機は地震とその後の爆発で激しく損傷。今後マグニチュード7以上の地震に襲われたら倒壊する危険性は増します。その場合、チェルノブイリの10倍もしくはそれ以上の放射性セシウムが空中に放出される可能性があります。東京は既存の汚染問題に追い打ちをかけられ、選手たちは大きな危険にさらされます。 

 

8.  福島第一原発には、1,000基を超える鋼製タンクが急きょ設置され、数100万ガロンの高濃度放射能汚染水を貯蔵し、更に1400トンの汚染水が汲み上げられています。未熟な作業員が設置したタンクがある上に、組み立てには、腐食したボルト、ゴム製シーリング材、プラスチックパイプ、粘着テープが使用されています。次に大きな地震が起きたら、多くのタンクは破裂し、大量の高濃度汚染水が東京からわずか北の太平洋に流れ込むことになります。

 

以上の理由から、私は会長からIOCに対し、生物医学の専門家による独立調査団の編成を促すよう強く要請いたします。即ち原子力産業及び原子力規制・監督機関と金銭やその他の利害関係にないメンバーによって放射能の影響を受けた全地域を調査し、健康被害の広がりや程度を明らかにするのです。そしてこれが日本が意欲を燃やす2020年の東京オリンピック計画の本格化で手遅れとなる前に行われることです。加えて、福島第一原発の原子炉と建屋の予断を許さない現状、地下水問題、汚染水で満杯の膨大な数のタンクについて、調査団が理解し、報告することが必要不可欠です。

 

敬具         

 

医学博士

王立オーストラレーシア内科医師会会員

ヘレン・カルディコット           

 

 

(日本語訳 野村初美)

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