社会全体の利益を守るために: 原発関係者以外の声を繋ぎ、増幅させるため、 国際諮問会議を構築する

2016年11月30日

松村昭雄

(日本語訳:川上直哉 神学博士)

2016年11月23日の朝日新聞(英語版)に、以下のような社説が掲載されました。

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地球規模で考えてみれば、5年と6か月という年月の経過など、一瞬の時間にも過ぎない。

2016年11月22日、マグニチュード7.4の地震が日本の東北地方を襲った。これは2011年3月11日の東日本大震災の余震とみられている。この地震は、私たち「忘れっぽい」人類への警告となった。

今回特に、東京電力福島第二原発の使用済み燃料プールの冷却装置が一時停止したという事実が、多くの人々の心に警報となって響いた。実に、2011年3月の災害直後には、福島第一原発の冷却装置が機能しなくなり、使用済み核燃料が極めて危険な状態に陥ったのだ。その時、大規模な放射性物質拡散の危険性が高まり、人々は恐怖したのだった。

今ここで私たちは意識しなければならない――私たちは、もしかすると、あの特別な教訓をすでに忘れてしまっているのではないだろうか。

私たちは、すべての災害から謙虚に学ばねばならないはずだ。今や、個人であれ、団体であれ、社会のすべてを挙げて、実行可能な対策を、しっかりと確実に講じ続けなければならない。

つまるところ、それだけが次の災害への唯一の備えとなる。次の災害は、あるいは今日起こるかもしれないのだ。

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日本政府と東京都は2020年の東京オリンピック関連情報を大量に流し続けています。その狂騒の結果、私たちはある事実についてほとんど顧慮しなくなってしまいました。つまりたとえば「復旧がどのように進んでいるのか」とか「作業員がどんな困難に直面しているか」とか、あるいは「福島第一原発周辺でどれほどの地域が立ち入り不能となっているか」といった事実を、私たちはもう気にもしていないのです。確かに、表層的にだけ物事を見ている日本人や米国人にとっては、福島原発の問題はずいぶん前に解決済みで、今も「アンダーコントロール」なのでしょう。しかしもちろん、そんなことにはなっていません。福島原発の危機は多方面にわたって継続しており、人類と環境の安全性は脅かされ続けている、と、私は懸念しているのです。

福島県楢葉町にある東京電力福島第二原子力発電所 (Kyodo November 22, 2016. Mandatory credit Kyodo Kyodo/via REUTERS)
福島県楢葉町にある東京電力福島第二原子力発電所
(Kyodo November 22, 2016. Mandatory credit Kyodo Kyodo/via REUTERS)

もはや、メディアがこの危機にスポットライトを当てることはなくなってしまいました。ですから、敢えて以下の事実に意識を向け続けることが重要となっています:

  • 放射能が強すぎて、福島第一原発の1・2・3号機の内部には、誰も入ることができない。今後最低40年は、露出した核燃料を取り出すこともできないとされている。
  • 東京電力は400トンの冷却水を毎日投入することで、メルトダウンした三つの炉心を冷やしている。これとは別に、400トンの地下水が原子炉建屋に毎日流入している。加えて、汚染地域に広がる放射性物質が雨によって海へと流れ出てしまっている。
  • 植物プランクトン(藻類)が福島第一原発からの放射性物質を吸収している。それは動物プランクトンや幼虫の中に蓄積される。これらの微細な動物たちが、魚をはじめとする海の動物の主な食糧となる。そうして放射性物質は、北太平洋海流に乗って北米西岸に到着し、アラスカやチリへと広がっている。
  • 320億円の費用を投じ、深さ約30m・全長約1キロ半の「凍土壁」を地中に設置したが、当初の目的である汚染水の流入を食い止めることには成功していない。
  • 日本政府(経済産業省)によると、実効性のある除染作業を完遂するための費用は「年額数千億円以上」である。このような多額の経費について、日本政府が自らの予算から捻出しようとする気配はない。

 

福島第一原発事故からわかったことは、日本政府と東京電力は社会を守る意思がない、ということです。実に痛ましいことですが、日本の原子力関連の高名な科学者たちは、東京電力の代弁者となるか、あるいは沈黙してしまっています。具体的に一つの事例を申し上げます。事故発生後、現場で「メルトダウン」が起こっていたと分かっていたのですが、「メルトダウン」という言葉自体が意図的に封印されてしまいました。実にそのままの状態で、2011年5月までの2か月間が過ぎてしまったのです。この事実は、5年たった後に、東京電力が自ら認めて発表したことなのです。

国際原子力機関(IAEA)は、この問題にどのようにかかわってきたのでしょうか。その実態を受け入れることもまた、私にとっては難しいことでした。最初の段階で、IAEAは福島第一原発へ専門家を派遣しました。派遣された専門家は状況を整理し、その知見を日本政府と東京電力に提供しました。それなのになぜ、IAEAは、日本政府が事故現場から「半径20km圏」を強制避難区域と決定したとき、その決定に対して厳しい問題提起をしなかったのでしょうか。米国から発せられた勧告・声明などの四分の一は「半径80kmを避難区域とすべき」というものでした。そして同じ勧告・声明などの十分の一は、なんと「200kmを避難区域とすべき」としていました。それはつまり、東京を避難区域とする、というものでした。そしてその意見には、英国やフランスやドイツも賛成していたのです。なぜ、それをIAEAは無視したのでしょうか。

著者による日本語訳読者への追記:ヘレン・カルディコット博士は、以下のようにコメントを寄せてくださいました。「実は、ほとんどの政治家・財界人・工学者そして原子物理学者は、そもそも、必要な知識を持っていないのです。ここでいう必要な知識とは、放射線生物学であり、がん・先天性異常・遺伝病を放射能が誘発する仕組みについての知識のことです。放射線への感受性についていえば、子どもは大人の20倍であり、女児は男児の2倍であり、胎児はさらに高い、ということも、まったくわかっていない。こうした無知こそが、問題の根幹なのです。」

IAEAの使命は「原子力の平和利用促進」です。原子力(核エネルギー)の軍事利用化を抑制し、核兵器の拡散を抑制することが、IAEAの使命です。こうした 使命を考えれば当然、社会が安全に保たれることをこそ、IAEAはその第一の道義的責任としているはずです。ですから当然ながら、IAEA参加国政府や原子力産業界の立場を守ることは、その任務にならないはずなのです。

 

【世界の原発と地域安定性】

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四海を鑑みますに、世界に広がる430の原発をテロリストが標的とする蓋然性は高まっていると判断せざるを得ません。政治的・経済的・環境問題的な見地に立って、政府と産業界は原子力をめぐる警備と安全性をめぐる議論を積み重ねるべきです。しかし、それはおざなりにされたままなのです。正確な情報が足りない、という問題があります。原子力をめぐる警備と安全性についての、独立した立場に立つ、専門家のネットワークが、今、求められています。故ハンス-ペーター・デュール博士(元 マックス・プランク研究所長)が、福島第一原発事故の数日後、私に次のように語っていたことを思い出します。「ひとたび原子力災害が発生した以上は、その災害を止めるための科学的解決法など、今後数十年にわたって出てこないだろう。できることはただ、被害を最小化することだけだ。そのためには、多様な分野の専門家から知恵を集め、原子力事故の全体像を見つめることが必要となる。」これが、彼の助言でした。

そして今ここに、「国際諮問会議(International Advisory Council = IAC)」を、NEAA(Nuclear Emergency Action Alliance)の下に設立することができましたことを、ご報告申し上げます。これは多くの方々からの支援の賜物です。このことに、私は大きな励ましを覚えています。現時点で、24人が13か国から参加してくださいました。多くの助力を賜り、実に多彩な分野の専門家に集まっていただくことができました。原子力工学、医学、環境の保全と権利、安全保障、生物学、社会運動、財界、そしてソーシャル・メディアといった各分野のトップエリートが、会議のメンバーになってくださったのです。この方々は、その専門分野のみならず公的にも高く評価され尊敬されている人々です。(ただし、このメンバーは全員、それぞれ個人の立場において、この国際諮問会議に参加していただきます。それぞれの専門的背景は、各位の履歴以上のものではないことを、ここに付記いたします。)

このIACの最初のメンバーを以下にご紹介します。ご理解を賜り、また関係各位にご紹介を賜れば、本当に幸いに存じます。

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私たちは、いつ・どこで・どのように原子力事故が起こるかを知りません。ただ、わかっておかなければならないことがあります。それは、政府と産業界はあらゆる努力を払って問題を社会から隠そうとする、という現実があるということです。

今日、私たちは、情報にアクセスすることができます。さらに私たちは、その情報を分析し解釈し伝達することもできるのです。効果的で独立したネットワークが設立され維持されるならば、現下求められている社会の利益を守ることも、可能となるでしょう。そのために、行動を起こさなければなりません。

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