松村昭雄
福島第一原発の事故以来、著名な科学者の方々による事故への見解を伝えてきましたところ、様々な分野の専門家から洞察に満ちたご意見が沢山寄せられました。また、大変ありがたいことに、フランス語、スペイン語、日本語、ドイツ語への翻訳を担当する皆さんの絶え間ない尽力で、何千人もの新しい読者を迎え入れられました。こうした共同作業によって国際的に高く信頼され、取り上げた問題が緊急対策を要するという然るべき認識を得られることとなりました。
これまでの三年間で、私は原子力発電と、それに伴う重大リスクが、一万年続く環境被害といういかに現実として受け入れ難いものであるか分かり始めてきました。
来月、日本国民に福島の安全性を問う機会が再び廻ってきます。2月9日の東京都知事選は世界中から注視され、論評がなされるでしょう。またこの選挙は、エネルギーという重要な争点を盛り込んでいます。候補者たちは既に、原発推進か反原発か立場表明をしています。
今回の都知事選が世界的に重要視されるのはなぜでしょうか。東京都が2020年の夏季オリンピックを取り仕切る栄誉と責任を負っているからです。
今後数週間かけて行われる選挙討論では、福島において現在進行中の危機、そして原子力発電の安全性について再び問われることから、東日本大震災と続く災害で学んだ教訓を再考してみることが役に立つでしょう。
- 極めて基本的な事柄が自明である。つまり、潜在的危険性のある機器は全て、運転を完全停止できる緊急停止スイッチを備えるべきであるのに、原子力発電炉にはそれがない。放射能の発生を止められないため、照射核燃料が原子炉の運転停止後も長期にわたって危険な量の熱を発生し続けることになるからだ。
- 原子力発電所は電力を生み出す一方、放射能汚染物質も大量生産する。汚染物質は発電所が運転を永久停止した後も何百年と危険性を残し、環境中への放出で長期間食物や水を汚染する。
- 損壊した原子炉の冷却水は放射能に汚染されながらも、冷却は継続を要する。そのため、汚染水は大量に増え、環境からの隔離が困難。特に地下水は深刻な事態にある。
- 日本には、照射核燃料を十万年間環境から安全に隔離しておける放射性廃棄物の保管場所がない。百年から二百年間、一時的に貯蔵できる仮の保管場所さえない。
- 日本は、福島第一原発の廃炉と燃料の取り出しを最低50年間では完了できない。この間、放射能は、大気や土壌、地下水に拡散し続け、汚染水は太平洋へと流れ込む。
- 原子力発電所が国家の安全保障問題を提起する存在であるため、政府は内部の作業状況を公の目から隠そうとする。そこには、公衆安全を脅かしかねない数々のミスや管理不行き届きが潜む。
- 甲状腺疾患、癌、白血病、遺伝子プールの損傷といった放射線被曝による健康被害の出現には数年かあるいは数十年かかる。じわじわと現れる放射線誘発疾患を社会は身を持って知ることとなる。
- 原発技術の未熟さ故、発展途上国への原発輸出は、より制御不能の核災害を引き起こす危険性が高い。偶発的原因のみならず、政情が不安定な地域での戦争やテロ攻撃も考えられる。
- 原子炉は全て、プルトニウムという人工原子も作り出す。プルトニウムは核爆発物の主要材料として、世界で核兵器製造に使われる。その上、地球上で最後の原子炉が廃炉になっても、プルトニウムはその後数万年間使用可能な状態で残り続ける。
以上九つの事実は、ここでは容易に理解していただけるでしょうが、過去三年間、技術者や官僚、そしてジャーナリストの多くが問題を謎に包んだまま、なおざりにしてきました。国民の懸念は増すばかりです。損傷した原子炉が発する放射能の封じ込めへの失策、甲状腺やその他の癌に侵された未知数の子供たち。その数は、五年か十年先になってようやく判明するのです。
時を同じくして、東京オリンピックの準備が進みます。オリンピックの主催に比類する栄誉など滅多にありません。莫大な資金とプライドが注ぎ込まれます。予算は80億ドル以上、そして国際評価が得られるかは円滑な運営にかかっています。五輪招致過程で国際オリンピック委員会(IOC)と日本が真っ先に心配したのは、安全性でした。即ち、福島の状況や放射能汚染の選手団や観客への影響です。日本はIOCの不安を晴らしました。IOCのジャック・ロゲ会長は日本に対してこう述べています。「あなた方は、自らを潔白であると表しました」。福島からの情報に従えば、結果は変わっていたに違いありません。このことが東京都知事選を通じてもっと真正面から議論されることを期待します。
オリンピック開催に当たって、福島を安全な脅威として扱う一番の方法は、「潔白」に日本、IOC、各国の科学者や工学者が加わることです。そうして結成された組織が、福島の危機軽減策が全て列挙されて、適切かつ適時に措置がとられているかを査定、承認するのです。これこそ金メダル級の評価に値するでしょう。
五人の候補者たちが東京都と1323万人の都民の統治を巡って競い合います。新都知事は、世紀に一度のポジションに就き、日本が新たな国際関係と新たなエネルギー政策を構築していくための一翼を担うことになります。理想として、特有の資質が求められます。長期的な視野、一流の外交的手腕、エネルギー政策への明確な理解、地方自治経験の持ち主であることです。以上の条件から鑑みると、首相や熊本県知事を歴任した細川護熙氏が他の候補者の間で抜きん出ています。
私は、東京オリンピックの成功を願っています。東京都民の皆さんも同様に、今後の危機のさなかにもチャンスを見出せるリーダーを信頼することで、オリンピック成功への望みを示すことができるでしょう。
(日本語訳:野村初美)
2 Replies to “原発オリンピック ━ 東京都知事選で問う危機とチャンス”
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