松村昭雄
(翻訳 川上直哉)
3月7日のインタープレスサービスは「8年後のフクシマ:高まる子ども達へのリスク」という私の記事を発表しました。この記事は、その週で2番目の評価を得ました。高評価を得て、私はほっとしています。お読みくださった多くの方々は「事故現場から炉心を除去するだけでも40年はかかる」と知って、驚いているようです。
ここで、故ハンス‐ピーター・ダー博士(ドイツのマックス・プランク研究所元所長)との会話を思い出します。それは2011年の3月にフクシマ事故が起きた時の会話でした。ハンス‐ピーター博士は私に電話で「フクシマ事故は日本政府や、TEPCOが公に発表したよりはるかに状況が悪く、この緊急事態について首相に話した方が良い」と示唆されたのでした。そこで私が博士にフクシマ事故の解決にどれくらいかかるか聞くと、博士は「少なくとも40年はかかるだろう」と答えたのです。
解決するのにそんなに長いことかかる人災が、どんな影響を残すのか。その答えは、私には衝撃的なものとなりました。例えば、第2次世界大戦で完全に壊滅状態となった東京はどうでしょう。その東京は、壊滅の後20年で1964年オリンピックを招致しました。他方で、1986年のチェルノブイリ事故で影響を受けた広大な地域はどうでしょうか。その地域は、33年後の今も不毛の土地のままです。おそらく更に数十年もしくは数世紀にわたり、その状態は変わらないのでしょう。第1次及び第2次世界大戦はたくさんの都市を破壊しました。しかし、その時破壊された都市でも、20年以内には再建されまたのです。つまり、核戦争に至らなかった世界大戦によって破壊された場合、その破壊された環境そのものは比較的健全に保たれていたのですが、原子力による放射能の影響を受けた場合、その場所の一部或いは全部が、数世紀もの間、居住不能な状態となる、という違いが、ここにはっきり見て取れるのです。
原子力施設の「管理された」環境内で、使用済み核燃料棒は10万年間安全な場所に保管されなければなりません。また、世界中から産出される25万トンの放射性廃棄物は数千年間にわたりあらゆる生命を危険に晒し続けるでしょう。人類が地球上に生存する時間をも越えて行くほどの長い期間が、ここで問題になっています。そんな課題と向き合ったのは、初めてのことです。この新しい発見を、私と私の読者の多くの方が共有したのでした。
フクシマの原子力事故に関連するいくつかの事実に基づいて、私は、太平洋の海洋生物への放射能被害と、それに伴う福島の子ども達・北アメリカの子ども達への健康リスクについて、次のような懸念を抱いています。 1
1.放射性炉心の除去に少なくとも40年(私の核科学者の仲間達は60年から80年とも言っています)かかる。今のところ、誰も放射性炉心の正確な場所は解っていない。従って、それをどうして取り除いたら良いか解っていない。また、その正確な場所が解って、取り除く方法と封じ込める方法が決まったとしても、それを実行するのにどれくらい長くかかるのか、解らない。
2.遠隔操作ロボットによって計測された最新のデータによると、2号原子炉の放射能数値は毎時530Svで、2011年3月のメルトダウン以来最高値であった。放射能を帯びた風は毎日北アメリカに向かって流れている。福島のすべての放射能が封じ込められるまで、それは続く。
3.110万トンの極めて高い放射能汚染水が、1000に及ぶ保管タンクの中にある。これらのタンクは緊急事態に対応して建てられたものであり、従ってそれに40年間の耐久性は期待できない。
- 福島のその地域に更にタンクを建てるスペースはない。早かれ遅かれ、太平洋に汚染水を放出することになる。
- 信頼できる幾つかの調査によると、日本政府の最善の努力にも拘らず、放射脳汚染水のすべてを保管タンクに取り込むことが実際は不可能なため、何十万リットルにも呼ぶ汚染水が毎日太平洋に漏れ出ているという。
- 強い地震又は富士山の噴火が、近い将来、予測されている。3つの損傷した原子炉について言えば、地震等の強い衝撃に耐えられるかどうか、かなり疑わしい。もし3つ損傷している炉心の内の1つでも崩壊した場合、どうなるか。あるいは、各々の原子炉の炉心が地震の圧力に晒されさらなる衝撃を受けたら、どうなるか。その時は、現在の危機に重なる形で、極めて最悪の事態が引き起こされるであろう。
科学者の誰も、上記の事実に異議を唱えていません。それで、私は以下のような懸念を覚えています。
- 広範に広がるフクシマ周辺の地域や、北アメリカの西海岸には、小さな子どもたちや子どもを生む年齢の女性がいる。その一人一人に、放射能環境汚染が脅威を与えている。そのリスクは衰えていない。
- 福島原子力発電所に隣接した海は、絶え間なく放射能によって汚染されている。魚をはじめとする海洋生物は、放射性核種を益々摂取している。従って、太平洋に接するすべて国々は、長期に渡る水産物の汚染のリスクを増大している。
元京都大学の小出裕章博士は大変尊敬される原子力を専門とする科学者です。彼によると、日本は元来、法定被爆許容量を「一般人は年間1ミリSv / 原子力研究者は年間20ミリSv」と設定していたそうです。しかしながら、福島核事故以来、日本政府は公式に原子力緊急事態宣言(RP1)を発表して、関連する法律を無効にしました。避難者は今、核事故前の法定許容限度より20倍も高い放射能被爆が予想される場所に戻されようとしています。このことについて、ある国連の特別調査委員が非難していました。
小出裕章氏(元 京都大学原子炉実験所助教)は、原子力の専門家であり、大変尊敬されている科学
者です。彼によると、日本は元来、法定被爆許容量を「一般人は年間1ミリSv / 原子力研究者は
年間20ミリSv」と設定していたそうです。しかしながら、福島核事故以来、日本政府は公式に原
子力緊急事態宣言(RP1)を発表して、関連する法律を無効にしました。避難者は今、核事故前の
法定許容限度より20倍も高い放射能被爆が予想される場所に戻されようとしています。このこと
について、ある国連の特別調査委員が非難していました。
フランスの大気環境研究センター(CEREA)の放射線シュミレーション地図によると、カリフォルニア州に於ける放射線レベルは、日本の北海道のそれよりも高いようです。その分析は、小出教授の調査とも一致しています。今後40年の間に米国西海岸で追跡する放射能がどんな影響を与えるか、科学者は未だ計算していないことでしょう。短期或いは長期的戦略を計画するためには、現在の状態を分析し、最高の専門知識と財源をつぎ込める国際アセスメントチームが必要です。福島からの放射能は、気流によって運ばれます。その流れはアメリカ西海岸で止まらない事に注意を払わなければなりません。実際これは国家的そして地球的問題なのです。
生命を脅かす状態があります。その解決方法は、今のところまだ社会的合意を得ていません。そうした現状を指摘することは、とても難しいことです。そこには複雑な障害があるのです。まず最初の障害は、意図的な組織的沈黙です。実際のところ、「解決方法も無い以上、それを話す価値は無い。ストレスと不安レベルをあげることはないのだ。」という議論には、もっともらしいところがあるのです。しかし、福島からの8年に及ぶ、衰えることのない汚染水漏れが検証されるならば、放射能レベル計測と予測できる健康被害に関して政府と学級的世界が組織的に沈黙していることは、必ず暴露され、問い直されるはずなのです。
カリフォルニアは現在世界で5番目に大きな経済圏に位置しています。農業、科学、科学技術、メデイア、観光の分野で、主要な地位を占めています。しかしこのカリフォルニアの経済的な力が引き続き発揮されるためには、土地と市民の健康が維持されなければなりません。
カリフォルニアの人々にとって、フクシマをはじめとする様々な場所に起因する絶え間ない放射能汚染の事実を厳しく査定すべき時は、もう終わりました。未来世代にその問題を押しつけてはいけないのです。今、私たちはアメリカの原住民の諺に学ぶべき時だと思うのです。それは、こういう諺です――我らの大地は祖先から受け継いだものではない。それは我らの子ども達から借りているに過ぎないのだ。