日本よ、プライドを捨て助けを求めよ

松 村 昭 雄

日本は島国です。海外の国々とは太平洋の海流を介してつながりを保ってきました。幾千年にも渡り、この海流は日本の船乗りたちを遥かなる異国の岸へと運んできました。ところが今や、海流は放射能を運んでいます。福島の事故処理について、日本は国際援助の要請を渋っていますが、危険が自国内のみに留まっているならまだしも、健康被害は諸外国にも及びます。原発に対する日本の危機管理はずさん且つ無責任で、各国政府から容認されるものではありません。とりわけアメリカは、食品汚染を受ける危機に瀕しています。

 

放射能汚染水は、福島第一原発の使用済み核燃料棒を冷却する過程で発生します。東京電力は、原発内に設置した約1000基のタンクに汚染水を貯蔵していますが、これらのタンクのうち、およそ3分の1はボルトで鋼鉄をつないだタイプで、溶接型のそれよりも漏水が起こりやすい脆弱な構造です。東電は、毎年数百基のタンクを増設し続けていかねばなりません。更に、福島第一原発の廃炉まで40年、増え続けるタンクは一体どこへ行くのでしょうか。

 

東電は、相次ぐ汚染水問題への対処で既に苦境に立たされています。原子力規制委員会の田中俊一委員長はジャパンタイムズで、福島第一原発について「お化け屋敷みたいに次から次へといろんなことが起こる」と表現しました。英紙ガーディアンが報じるところでは、あるタンクから極度に高い放射線量が検出されているということですが、東電はその原因を把握していません。

 

今夏には、事故発生以来、汚染水が太平洋に流出している事実を東電が明かした上、同社に事故処理能力のないことが示されたことを受け、安倍晋三首相が規制委に対し、廃炉に向け積極的関与を強めていくよう指示する展開となりました。田中委員長は、「汚染水の漏洩を即座に止めることは不可能。それが現実だ。汚染水は未だ海洋に流出し続けており、周辺環境への影響をより詳しく調査していく必要がある。」と述べました。

 

放射能汚染水の流出は今後も続くでしょう。その上、タンク容量には限界が迫り、日本政府は現在保管中の汚染水の海洋放出も検討せざるを得ない状況にあります。

 

 

汚染水がもたらす海洋への影響は計り知れません。南北アメリカ大陸、アジアの島々や長く延びる沿岸、オーストラリアの堡礁に至るまで、世界の広範を太平洋がつないでいるということを忘れてはなりません。太平洋が育む生態系は複雑で多様性に富んでいます。

 

ところが、その恵みの活用が最大の懸念となっているのです。鮭はアラスカを目指して東へ、鮪は日本の近海へと回遊します。今のところ、福島県沖での漁業は操業を停止しています。放射化学研究チームを率いるケン・ビュッセラー氏は、福島県沖での調査を終え、次のように述べました。「原発事故による海洋生態系への影響はまだよく分かっていないが、汚染水の流出が増しており、危惧すべき事態だ。」

 

日本人は何千年もの古より、海とは特有の絆を紡いできました。それがここ二年で、遺産とも言うべき海との関係を永久に変えてしまったのです。元来未解明な生物連鎖にどんな影響を及ぼすのか、正確に想定することは不可能です。地球の住人として、日本人そして人類はその地球を汚す権利など有してはいません。

 

 

放射能汚染水の危機は、悪化の一途を辿っていますが、これは他にもたくさん潜在する危機のうちのほんの一事に過ぎません。多くの科学者たちが福島の最悪のシナリオを次のように説明しています。2011年の地震と津波により、原子炉4基が損壊し、このうち3基は放射線量が高いため修復が全く進まず、残り1基についてはチェルノブイリの10倍に相当する放射能を含んでいる。これら原子炉のうち1基でも崩壊すれば、世界規模の大惨事を引き起こすだろう。地震によって構造物が損傷し、シナリオは現実になり兼ねない、と。

 

危機。大惨事。これらの語が警鐘を鳴らしています。

 

ところが、安倍首相の基本方針では、日本は平常通りであると明言。このところの首相は、事故対応の不手際を批判されてきたものの(東京は2020年の五輪開催地として相応しくないという声もあります)、政権内の立場は強く、政策を揺るぎなく行使しています。

 

安倍首相はむしろ、苦労の末手にした政治権力を危機の抑止に行使すべきです。無益な国家の威信感情を制して、世界各国から選り抜きの専門家と技術の提供を要請することが首相には可能なのです。各国はすぐさま援助に駆けつけてくれるに違いありません。支援を求めることこそ、安倍政権の最優先事項のはずであり、それがよい政治というものです。輸出品トップが放射能ということになれば、首相はどうやって日本経済を強く立て直していくつもりなのでしょうか。

 

実際信じがたいのは、タンクからの汚染水漏れや燃料プール冷却装置の電源喪失、新たな巨大地震といった更なる災害への防止が、首相の最大の関心事ではないことです。大きな難題と起こり得る大災害について理解しているには違いありません。しかし、損壊した原子力発電所と地下の汚染水を10年で処理する抜本策が見出せず、首相としては、2020年開催の東京オリンピックへ衆目を逸らしたいところなのでしょう。この方策で行けば、次の災害が自分の任期中に起こらないことをただ願うのみです。

 

政府の腰の重さは愚かしいほどです。特に顕著なのはアメリカで、首脳陣は、科学ではあてにならない、もっと決定的な証拠が必要だと言って、等閑に付しています。公益のため、人的、物的資源を結集し、先んじて予防措置を講じるのは、政府だからこそ為せる技です。ドイツ、ロシア、フランス、イギリスは確かに支援できるでしょうが、アメリカは科学、工学、衛生において、最高の技術と専門家を擁する国であります。日本はこうした国々に、汚染水流出をくい止め、損壊した4基の原子炉を安定化するため手助けを求めていかねばなりません。日米両国の首脳は、一旦起こってしまうと元には戻らない性質の重大事故で、人々が少なくとも数百年に渡り、放射能と健康被害の危険を背負っていくという事実を認識すべきです。

 

政治家は任期制のおかげでその責務から逃げおおせても、国民はいかなる健康被害が襲ってこようと逃げられません。我々日本人は、回復不能なほど太平洋を傷め付けた者としてその遺物を後世に継ぎたくはありません。我々アメリカ人は、この災害で被害を被りたくはありません。我々人類は、汚染された太平洋を目にしたくはありません。しかし、安倍首相が人々の健康より富を優先するのを許してしまえば、我々も長い歴史の中では確実に加担者となるでしょう。

 

日本は、そのプライドを捨て、自国と世界を救うために、国外からの英知と技術を求めるべきです。

 

 

(日本語訳:野村初美)

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