難民問題と各国の責任


 

松村昭雄

国連総会の開幕スピーチでパン・ギムン(藩基文)事務総長が、増え続けるシリアからの難民や移民の窮状に注目し、欧州の首脳と国民が直面する政治的・人道的問題とその責任について訴えました。2011年以降にシリアから逃れてきた人々は400万人以上に達し、イラクやアフガニスタン、その他の危険な国々からの難民を合わせると、数はさらに膨らみます。

ギリシャ、イタリア、ハンガリー、アルバニア、マケドニア、モンテネグロ、セルビア、オーストリア、スロバキア、チェコ共和国、ブルガリア、ルーマニア、トルコ、ポーランド、ドイツといった南・東欧諸国には、難民や移民らの受け入れ国として大きな負担がのしかかります。紛争、革命、激変と無縁ではなかった国々です。

9月、ニューヨーク・タイムズ紙が社説で東欧に対し、過去を思い出すよう促しています。

第二次世界大戦以来のヨーロッパにおける最大の難民危機は、ドイツやその他の国々が一時的に国境を閉鎖するなど深刻さを増している。にもかかわらず、EU加盟国による難民受け入れの分担義務化についてEU内相間で合意に至らなかった。

この惨憺たる反応が一層恥ずべきものであるのは、難民受け入れの割り当てに対し、断固反対したのがいくつかの東欧諸国だということだ。つい最近、西側諸国を受け入れたことで大いに利益を享受し、恩恵をうけた国々である。

反対しているのは中欧・東欧諸国だけではないし、そうした反発はわからなくもない。25年前、ソ連のくびきから解かれた国々のほとんどは未だ周辺国と比べて貧しく、被害者意識が消えていない。遠い国からの人々が自国に大量に入ってきたことなどなければ、中東の危機を身近に感じることもほとんどない。

しかし、こうした事情は関係ない。欧州の首脳たちが目の前にしている問いは移民を受け入れるかどうかではなく、難民が最初にたどりつくギリシャやイタリア、ハンガリーといった国々が大量流入でとてつもなく大きな負担を負っている状況にどう対処するかである。

 

「もしも」ではなく「どうやって」という問いなのですから、国民を動かして了見を変えさせるために国家はどうすればよいのか、わたしたちは自問しなくてはなりません。南欧や東欧には意思決定に政治や経済が入り込む余地がありません。今のような状況に、この余地を広げる何かを考えてみる価値はあるでしょう。

dead boy

勇気ある行動へのインスピレーションにはたくさんの形がありますが、伝統的で有用な二つの源、それは宗教と突然の劇的な出来事です。宗教指導者は、旧態とした問題に新たな取り組みを提示し、やっかいな政治的ジレンマに斬新な視点をもたらしてくれます。

ここで私自身の思い出を振り返ってみます。1989年11月、ベルリンの壁が崩壊して二ヶ月後のことでした。ゴルバチョフ大統領がクレムリン宮殿でモスクワ・グローバル・フォーラムを主催しました。そこで数百人に及ぶ宗教的・政治的指導者が一堂に会して、国境を越えた解決困難な脅威に対し共に取り組んだのです。

言うまでもありませんが、1990年1月には鉄のカーテンが突如消滅し、フォーラムに参加していた首脳たちは活気づいていました。新しい希望の精神によって、クレムリン宮殿内での閉会式でユダヤ教の安息日は異例の超越を成し、東欧と中東出身の政治・宗教指導者たちが人権と開放路線の重要性を強調しました。

その中には、シリアで有力者ながら独立した立場をとる人物、イスラム教最高権威シェイフ・アフメド・クフタロ師がいました。クフタロ師は、大変革に際して和解が必要であると強く訴えていました。(クフタロ師はのちの2001年5月、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世のウマイヤド・モスク訪問に付き添うという歴史的偉業を成しました)。つまり、世界情勢が激動するときにシリアの宗教指導者が東欧への支援を申し出たのです。

25年後、東欧諸国の多くがEUに加盟してきました。新加盟国は政治紛争を経て仲間入りをし、それぞれが連合に貢献しています。経済的・政治的争いが続いていても、EUのひとつの強みは、アフリカやバルカン諸国の人道危機に立ち向かうため一丸となって行動できるところにあります。

先週、フランシスコ法王が米連邦議会で演説し、アメリカ大陸とヨーロッパの両方で高まり続ける難民危機について述べました。

難民や移民を数字でとらえないでください。人として顔を見て、話を聞いてください。彼らの状況にできる限りの対応をしてください…常に人道的で公正に友愛をもって応えてください。最近よくある誘惑―やっかいなことはことごとく切り捨てたいーは避けなくてはなりません。

9月中旬は政治的に華々しく盛り上がる時期です。ニュー・ヨークで各国の首脳らが握手を交わし、平和を口にします。一方で秋が始まる時期でもあります。東欧は寒さが増していきます。子供の命が、他の多くの人の命が危険にさらされています。いやが応でも、ヨーロッパの首脳らと国民は迅速かつ有効な対策で、目の前にいる数百万という新来者たちの生活を自国に受け入れる責任があります。統合は容易でありませんが、EUが進めているプロセスです。新メンバーを迎え入れるときがやってきたのです。

 

 

(日本語訳 野村初美)

 

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